ろ材の「バクテリア定着面積」への疑問
アクアリウム界に星の数ほど存在する「ろ材」。特に、水槽内に溜まった有害物質をバクテリアによって無害化させる生物ろ過は、飼育する上で切ってもきれない話になる。
おおまかな話は上の記事でも書いたが、今回はさらに一歩踏み込んだ話をしてみよう。
バクテリア定着面積がろ過能力を決めるが……
生物ろ過を効率よく行うためには、ろ材選びが重要だ。
特に水槽槽飼育下では、スペース的な問題から投入出来るろ材の量に限りがあるので、使用するフィルターとの相性も考慮したろ材選びをしなければならない。
ところで、市販されている生物ろ材の中には「微生物定着有効面積◎◎◎㎡/ℓ」と表記されている商品があるが、この面積はろ過バクテリアが定着する面積のことを指している。
当然、この面積が広ければ広いほどろ過能力に優れている計算にはなるが、果たして実際のところはどうなのだろう?
生物ろ過能力の高いろ材
一般的に、バクテリア定着面積が広いろ材とは「多孔質ろ材」のことを言う。
ちなみにガラスやセラミックを焼き上げ加工したろ材が当てはまるが、これらの値段はピンキリ。5ℓで1000円程度のものもあれば1万円近くするものもあり、大体は「定着面積」と「耐久性」によって異なってくる。
価格に見合った性能差があるかと聞かれれば、なんとも言えない部分はあるのだが、安価なろ材は軽く濯いだだけでボロボロと崩れたりと、耐久性に難のある商品が多いのでしっかりとしたメーカ品を選んだ方が無難だ。
バクテリア定着面積への疑問
さて、この多孔質ろ材。メーカはいかに沢山のバクテリアが定着するかを謳い文句にしているが、残念ながらその部分は肉眼では確認できないので、正確な面積はわからない。
例えば上の画像のように、ろ材の随所にゴミが溜まっている状態になると、肉眼で確認できない部分はかなり目詰まりしているはずだし、少なくとも新品時ほどのバクテリア定着面積は無いものと推測できる。
となれば、目詰まりした分ろ過能力も落ちるはずだが、実際はよほど酷い目詰まり状態にならない限りろ過能力の不足を感じたことは無い。実際、モフチョ家では10年以上使用しているろ材もあり、なんの問題もなく生物ろ材として機能している。
そしてモフチョはこの部分に疑問を感じた。
現実問題、ろ材を目詰まりさせずに使い続けるのは極めて難しい。物理ろ過をきちんと行い、定期的にメンテナンスすれば目詰まりは防げるが、それでも新品時の面積を維持することはまず不可能。なんたって「目に見えない部分」の話なのだから。
バクテリアの数は魚の数と比例する
バクテリアは新規で立ち上げた水槽にはほとんどいない。
そこにバクテリアの餌となるアンモニア(アンモニウム)や亜硝酸、そして酸素があって初めて発生するが、このバクテリアは魚の数と比例関係にある。
バクテリアの数と魚の関係
ここで2つの水槽とろ材を比較してみよう。
- 水槽A 新品ろ材を使用 バクテリア定着面積200
- 水槽B 中古ろ材を使用 バクテリア定着面積100
ろ材のバクテリア定着面積は異なるが、1匹につきバクテリアを10必要とする魚を入れた場合、バクテリアの数は以下のように発生する。
5匹 | 10匹 | 20匹 | |
水槽A | 50 | 100 | 200 |
水槽B | 50 | 100 | 100 |
AとBではバクテリア定着面積が異なるので、Bに20匹の魚を入れて飼育することはできないが、10匹までならどちらの水槽でも問題なく飼育できる。
要するに、バクテリア定着面積が広くても魚の数以上にバクテリアが増える事は無いので、目詰まりした古いろ材でも十分に飼育は可能、ということなのだ。
多孔質ろ材の優位性は?
ここで改めて多孔質ろ材について考えてみよう。
ほとんどの飼育経験者は、多孔質ろ材のろ過能力の高さを感じているだろうし、モフチョ自身もそのパフォーマンスに関しては少しも疑ってはいない。
特に新しく水槽を立ち上げた直後や魚が沢山いて飼育水が汚れやすい水槽では、他のろ材よりも「ろ過サイクル」が早く出来上がるように感じている。
ただ先にも書いたように、新品時のバクテリア定着面積を維持することはできない以上、そのように感じるのは「面積が広いから」ではなく、もっと別な部分に理由があったりする。
その理由は最後に述べるとして、もう少しだけ話を続けてみよう。
バクテリアはどんなものにも定着する
ところで、
「表面がツルツルしたろ材よりザラザラしたろ材の方がバクテリアが定着しやすい」
といった話、なんとなくでも耳にしたことはあるんじゃないだろうか。
……が、実はこれは大きな間違い。定着する数はザラザラしている分多くなるかもしれないが、バクテリア目線で考えればどちらだろうと全く関係ないのだ。
ここで興味深い話を見つけたので、下の記事をざっと目を通してほしい。
ヤクルト容器が個人レベルの飼育で役に立つかは置いといて、このようなツルツルしたものでも、十分にろ材としての役割を果たしているのは理解できたと思う。
中でも、肝心なのはこの部分。
容器の形状が汚水の流れをさまざまに変化させ、水中の溶存酸素濃度が多様になり、その結果、ヤクルトろ材には嫌気性微生物から好気性微生物まで極めて多種類の微生物が生息します。
また、水の流れが緩やかに制御されるので、微生物が棲みつきやすく、ろ材に付着した微生物がはがれにくいのです。
バクテリア定着面積よりも、バクテリアが棲みやすい環境になっているかどうか、こちらの方が生物ろ過には重要なポイントなのである。
材質よりも形状が重要
ろ材が目詰まりすると「チャネル現象」が生じるが、こいつは少々厄介。
チャネル現象とは、目詰まりした部分を避けるように水の通り道ができる現象のことを言うのだが、フィルター内でこのチャネル現象が起きてしまうと、バクテリアの餌となる水や酸素が十分に行き渡らなくなり、結果としとバクテリアの発生や定着を妨げてしまうからだ。
いくらバクテリア定着面積の広いろ材を使おうが、これではろ過能力をフルに発揮することはできない。
ならば、チャネル現象による生物ろ過能力ダウンを防ぐにはどうすれば良いのかというと、目詰まりしにくい形状のろ材を使うのがポイトになる。
上の画像のように様々な形をしたろ材が市販されているが、具体的には、複雑な形状をしたろ材の方がチャネル現象は起こりにくいように感じている。
まとめ
アクアリウムではどのようなろ材を使うのがベストなのか、正直どのろ材にも一長一短があるし、各々の飼育環境によって答えは変わってくるだろうが、バクテリア定着面積ばかりに目を向けるのではなく、バクテリアが定着しやすい環境作りも重要だという話に変わりはない。
それではなぜ多孔質ろ材がアクアリウムでは重宝されるのか、これは単にろ材の「持ち=耐久性」が良いからだ。
かく言うモフチョも長きにわたって多孔質ろ材=リング状のセラミックろ材を愛用していたが、飼育経験を重ねるにつれ、その「持ち」も重要だと言うことに気づき、現在に至っては樹脂製のろ材をメインで使用している。
理由は至って単純、耐久性に優れている、それだけのことである。
もちろん、この樹脂製ろ材にもデメリットはあるが、理論上のバクテリア定着面積は多孔質ろ材よりも明らかに狭いにもかかわらず、それらのろ材と比較しても遜色ない性能を発揮しているのだから、より耐久性の高い樹脂製ろ材を使うのは自然な流れだったのだろう。
魚だけでなくバクテリアにも優しい環境を作る……これがアクアリウムにおける最重要項目だと言っても過言ではない。
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